【院長コラム】 No.7 ロシアのウクライナ侵攻と歯科治療
ロシアのウクライナ侵攻で、パラジウムの供給不安が広がっています。ロシアの侵攻以前からパラジウムは高騰していました。排出ガス規制をクリアするために、自動車には「排ガス浄化装置」という装置を組み込まれています。この装置を作るうえで欠かせないのが「パラジウム」という金属で、いま世界各国の需要拡大に伴い、このパラジウムの価格が高騰しているというのです。
パラジウムはロシアが世界生産量の4割を占めています。いわゆるレアメタルで、歯科用金属のほか、自動車の排気ガスを浄化する装置の触媒、パソコンなどに入っている電子部品にも使われています。
価格は、ロシア軍がウクライナに侵攻した2月24日に、日本円で1グラム当たりおよそ1万250円だったのが、3月9日にはおよそ1万3760円、わずか2週間ほどの間に3500円ほど値上がりしています。金よりもはるかに高額です。
この値上がりは、ロシア情勢を受けて今後供給が滞ることへの懸念からきているということです。
パラジウムは保険適応の金属の修復物の材料に入っています。歯科医院でむし歯の治療の際によく使われ、俗に銀歯などと言われています。
正式には「歯科鋳造用12%金銀パラジウム合金」と言います。 組成・成分としては、金12%、パラジウム20%、とJIS規格(JIS適合品)で定められており、銀50%前後、銅20%前後、その他インジウムなど数%が含まれています。
銀も50%含まれていますが、銀歯というのは正確ではありません。正確にはメタルインレーと言います。
パラジウムが20%も含まれているだけでなく、金も12%含まれていますから、歯科鋳造用12%金銀パラジウム合金 の価格も異常に高騰しており、保険のメタルインレーを入れると完全に逆ザヤになるという異常事態が続いています。
金属の価格が上がるとそれに伴い、保険点数も改訂されるのですが、それがまったく追いついていません。
保険点数が上がれば患者さんの負担も増えていきます。
歯科医院も患者さんもいいことは何もありません。
このような状況の中でネット上では、セラミックの詰め物を保険適応にしろとか、銀歯を入れているのは日本だけ遅れているとか、銀歯は体に悪いとか、メタルインレーに対して否定的な意見が多数出ています。
合成樹脂やセラミックの修復物のメリットは見た目がいいというだけです。 それ以外の適合性、強度、破折リスク、削除量などはすべてメタルインレーのほうが優れています。 適切なメタルインレーでの処置は20年でも30年でも再治療は必要ありません。
芸能人が見た目だけを気にして処置をするのなら分からないでもありませんが、一般の人はその場の見た目より将来的な安心、安全を優先させたほうがいいと思います。最終的には患者さんが何を求めているかです。
保険のメタルインレーを入れると逆ザヤになるからという理由で、自費のセラミックインレーなどを勧める歯科医院もあるので注意が必要です。
2022年03月17日 14:56