保険診療と自費診療の本当の違いは
歯科医院のホームページも今ではたくさんあります。
その中で多くの歯科医院が保険診療と自由診療を取り上げ説明していますが、ほとんどが「もの」の説明であり、患者さんに誤解を与えているようです。
例えば金の詰めものはいくら、セラミックのかぶせものはいくら、インプラントは一本いくらといった類の説明がほとんどです。歯科医院でそのような説明を聞いた方もたくさんいると思います。
しかし、保険診療と自由診療の違いは確かに材料の違いもありますが、それは違いの一部でしかありません。
健康保険制度の仕組み
正しく健康保険制度を理解してもらうためには、本当はその制度ができた経緯から説明しなければならいのですが、ここでは経緯は省いて現在の仕組みをできるだけ簡単に説明します。
現在わが国では「国民皆保険」といって、原則として国民は何らかの健康保険に加入することになっています。会社に勤めている方が入っている健康保険組合や政府管掌保険、自営業の方が入っている国民健康保険などが代表的なものです。
毎月健康保険料を納入し、病気やけがの時には保険で治療が受けられるようになっています。
ここで健康保険が火災保険や生命保険と根本的に違うのは患者さんが受け取るのはお金でなく、「医療」という現物を受け取ることになっていることです。これを「現物給付」といいます。
医師や歯科医師は組合や市町村などに代わって「医療」を給付していることになります。 「医療」いう現物を給付するためにはその内容と料金を決めなければなりません。 これを決めているのは厚生労働大臣です。医師や歯科医師が勝手に決めているわけではありません。
このように決められた料金表の医療行為の内容が保険の治療として認められています。
このように健康保険制度に保険診療の枠が決められており、枠の中に入らない手術や技術、薬、材料などもたくさんあり、非常に制限のある診療になっています。
簡単に言えば、この枠の外にある診療が保険外診療、いわゆる自由診療と呼ばれている医療行為になるわけです。
医療と歯科医療
現在の日本においても法的には医師の資格があれば(歯科医師ではありません)抜歯や口腔内の手術だけでなく、むし歯の治療も歯周病の治療も、歯の根の治療も口の中の医療行為は全てできることになっています。
このことは患者さんだけでは無く医師も歯科医師も知らない人が多いようです。
それでは歯科医師しかできない行為は何かといいますと、
- 歯冠修復処置(つめたり、かぶせたりすること)
- 欠損補綴(入れ歯を入れたり、ブリッジをいれること、インプラントも入ると思います。)
- 歯列矯正(歯並びをきれいにすること)この3つだけです。
法的にこの3つは歯科医療ではあるけれど、医療ではないということになります。
自由診療を考える時も、一般的にはこの非医療の部分しか考えられていないようですし、この非医療の部分の自由診療というのは患者さんも理解はできるようです。
しかし、保険制度の仕組みのところでも説明したように、医療の部分にも保険の枠に入らない治療行為は多数あります。
治療費だけで良心的な歯科医師は分からない
今まで述べてきたことから分かると思いますが、治療費だけでその歯科医師が悪徳歯科医師か良心的な歯科医師かはまったく分かりません。
例えばある歯科医院では治療費が5万円と言われ、別の歯科医院では5千円と言われたとすると、多くの患者さんが5千円の歯科医院を良心的な歯科医院と考えてしまう傾向があります。
でも5千円の歯科医院が保険の枠にとらわれ、また診療レベルの低い治療を行なっていて、5万円の歯科医院は枠にとらわれず、医学的に最善を尽くして十分時間をとり治療したとすると、治療費だけで歯科医師の善し悪しは分からないことになりませんか。
また、逆に5千円でも保険の枠に入らない行為を赤字覚悟ででしてくれる赤ひげのような歯科医師もいるかもしれませんし、5万円でも滅茶苦茶な治療をしている歯科医師もいます。
つまり治療費だけで歯科医師の善し悪しはわかりませんし、治療内容のレベルも患者さんには分からないのです。