【院長コラム】 No.8 歯列矯正は美容か治療か
ネット上に次のような記事が載っていました。「新型コロナウイルスの感染拡大でマスク生活が長期化している間に、子どものころから気になっていた歯並びを良くするため思い切って歯列矯正を始めた。矯正するならばマスクで器具が隠れ、人と会う機会も減った今がチャンスだと思ったのだが、周囲に話すと友人や知人からも「実は私も……」と打ち明けられた。取材してみると、やはりコロナ禍で歯列矯正の需要が増えていたが、一方で治療を巡るトラブルも増加していた」
マスクで口元が見えないうちに矯正をしてしまおうという考えの人が増えているのでしょうか。
学校の歯科健診でも歯列不正でチェックされて、疾病通知を持ってくるお子さんがいます。
疾病通知をもらうと歯列不正を病気のように考えてしまう保護者の方もいるようです。
確かに、矯正歯科のテキストブックには不正咬合や歯列不正は有害であると書かれていますし、多くの矯正歯科専門医と称する人たちも同様のことを言っています。
つまり、不正咬合や歯列不正は咀嚼機能障害、発音障害、筋機能障害、心理障害、顎関節障害、むし歯や歯周病などの原因になるということのようです。
しかし、それらの疾患と不正咬合との関係を科学的に実証した研究は見当たらないようです。
アメリカ歯科医師会雑誌に掲載されたある論文では1980年から2006年までに発表された数多くの論文から矯正治療と歯周組織(歯の周りの歯ぐきや骨など)の健康との関連を調査し、歯周組織の健康に及ぼす矯正治療の望ましい効果には信頼すべきエビデンスはないと結論づけています。
また、むし歯と叢生(でこぼこした重なった歯並び)との関連についても今までに発表された論文は適切な研究方法や質の高さに欠けており、エビデンスの高い論文はないと指摘されています。
口唇口蓋裂のお子さんの矯正治療は公的保険の給付の対象になっています。しかし、それ以外の矯正治療は美容が目的なので健康保険の対象にはならないのです。
審美的な問題を本人や保護者が気にしていれば、学校健診で疾病通知をもらわなくても歯列矯正をするでしょうし、疾病通知をもらっても歯並びが気にならなければ矯正をする必要はないのです。
反対咬合で有名なスポーツ選手には柔道でロサンゼルスオリンピック金メダルのJOC会長の山下泰裕氏や野球の松井秀喜氏、内川聖一氏などたくさんいます。彼らが子供のころ矯正をしていたらあれほどの選手にならなかったかもしれません。
歯列矯正は見た目が気になったら必要最小限やればいいのです。
特に大人の歯列矯正は歯や歯周組織にとって害がある場合も多いので注意が必要です。
2022年04月03日 16:58