【院長コラム】 No.11 顎関節症という病名を使うのは日本だけ
先日テレビの朝の番組で顎関節症を取り上げていました。
日本ではいまだに顎関節症という病名が使われています。学会の名称は今でも日本顎関節学会です。顎関節症という病名は、1949年にFogedという先生がtemporomandibular arthrosisという病名を提唱し、これを当時東京医科歯科大学教授であった上野正氏が「顎関節症」と訳したものです。
しかしながらtemporomandibular arthrosisという病名は、この疾患の病名として適当ではなく、現在世界的には使われていません。 この疾患は多くの研究者によりその実態が解明され、数々の病名の変遷を経てtemporomandibular disorders(TMD)という病名を使用するのが一般的になっています。
このTMDいう病名も現在ではいくつもの病態の集合した総称、umbrella term であるとされています。
また、顎関節症の原因は咬合だとする理論は昔から存在していました。現在でも信奉している歯科医師がかなりいますが、世界的に見て、咬合調整を含め、矯正治療や修復処置のような不可逆的な方法で咬合を改変することは、ほぼ完全に否定されておりスプリント療法(マウスピースのようなもの)もほとんど意味がない治療法だとされています。
顎関節症を咬合の問題と顎関節それも関節円板の位置だけでこの疾患を論ずる歯科医師も今でもいます。またその治療法が咬合調整や矯正治療、補綴治療などのデンティストリーが主な内容だと言われても、その古色蒼然とした考えには驚いてしまいます。
2010年3月3日付けで,AADR(The American Association for Dental Research )(米国歯科研究 学会)からTMDの診断と治療についての声明が発表されています。 その声明で強調していることは次の3項目です。
1)診断は診断機器でなく、問診による病歴聴取と身体的な検査によって行う、画像検査は必要に応じて行う。
2)治療は保存療法によって行う。
3)診断と治療は共に、身体のみでなく心理・社会的要素に対しても行う。
つまり、診断は機械に頼ることなく、問診を詳細に行い、治療は不可逆的的な治療(矯正やかぶせることなど)を避け、ストレスなどの心理的社会的なことも考えて治療するということになります。
この声明では、多くの TMD 患者の自然経過を調べた研究により,TMD という病気は時間経過とともに改善し,治癒していく疾患であることも示唆されています。 つまり、特別な治療をしなくても治ってしまうTMDの患者さんもたくさんいるのです。
多くの歯科医師は開業医でも大学病院の歯科医師でも医師とは名ばかりのデンティスト(歯大工、歯の修理工)であるため、医療行為ができないだけでなく、それ以前の問題として医学的思考が苦手のようです。
顎関節症の治療をすると言って歯列矯正をしたり、歯にかぶせ物をしたりする歯科医師にはくれぐれもご注意ください。
2022年06月25日 14:10