院長コラム No36 「クリーニング」と「お口」という言葉について
診療所には時々「クリーニング」をしてくださいという患者さんがきます。 この「クリーニング」という言葉は専門的な歯科医学用語にはなく、歯科医師の解釈も患者さんの理解もあやふやなようです。私の診療所ではこの「クリーニング」という言葉はまったく使っていませんので、どのようなことを希望しているのか聞いてみますと、 ある患者さんは歯石を取ることを考えていますし、歯についた茶渋のような物を磨くことを希望してくる方もいます。また、歯を白くすることをクリーニングと考えている方もいます。
ある歯科医師は次のように言っています。
「女性が美容院で体験する感覚に似ていると思います。髪は自分でも手入れできますが、より美しさを求めて美容院に行きます。お口の場合も自分でケアできますが、より気持ち良いケアのために歯科医院に行く。これが理想ですね」
このような発想は、デンティスト(歯の修理工)特有の発想なのです。最近、病院に行く感覚ではなく美容室やエステティックサロンに行く感覚で来てもらいたなどと言う歯科医院も多数あり、この歯科医師も歯科医院と美容院を同列に語っていますが、歯科医院は本来医療機関であり、決して、並びたつものではありません。
より美しさを求めて美容院に行くことを定期検診で歯科医院に行くことの例えとしてあげているのでしょうが、その発想を持つこと自体がデンティストの性なのです。
歯科診療所というのは歯科医療をするところです。しかし、もともと医療行為をやっていない上に、診療室の雰囲気まで美容室のようにしていては、ますます医療行為をしている医師には見られないでしょう。
また「お口」という言葉づかいからして、医師ではありません。医師は「お耳」とか「お目々」などとは言わないのが当たり前で、このような発言をする人たちに本当の医療行為ができるわけがないのです。
このような言葉で表現するのは一部の歯科医師に限ったことではありません。
日本歯科医師会のホームページのタイトルは「歯とお口のホームページ」になっていますし、ホームページ内では全て「お口の健康」「お口の仕組み」「お口の病気の話」という表現に徹しています。
ちなみに日本耳鼻咽喉科学会のホームページを見ますと患者さん向けの内容でも「耳、鼻、のど」などという表現を使っており、「お耳」や「お鼻」などいう言葉はどこにも出てきません。
なぜ歯科医師は「お口」という言葉を使いたがるのでしょうか。私にはまったく理解できません。
2025年10月16日 11:57
